国内の回転ずし市場が成熟する中、大手各社にとって海外事業の重要性は年々高まっています。 【画像】スシロー、くら寿司の直近5期の「海外事業実績」を見る その中でも、スシローとくら寿司は積極的な海外展開によって存在感を強めています。直近5年で両社とも海外売上高や店舗数を大きく伸ばしてきましたが、進出先や成長の描き方には違いが見られます。 本記事では、両社の海外進出の歩みや直近5期の海外事業実績を振り返りながら、それぞれがどの市場を選び、どのような成長戦略を描いているのかを読み解きます。
スシロー、くら寿司の海外展開の歩み
スシローの海外進出は2011年の韓国進出から始まりました。その後、台湾、香港、中国本土、シンガポール、タイ、インドネシアなどに進出し、アジアを中心に店舗網を拡大。2021年から出店を加速させ、2025年2月時点での海外店舗数は200店舗を突破しています。現在は中国本土や東南アジアを成長市場と位置付け、アジア全域で事業規模を拡大しています。 くら寿司は2009年、米国カリフォルニア州に海外1号店を出店しました。2019年には米国子会社「くら寿司USA」がNASDAQへ上場しています。また、台湾では2014年に現地法人「アジアくら寿司」を設立し、同年に1号店を開業。2020年には台湾子会社も上場を果たしました。両市場で現地法人を育成しながら海外事業を拡大している点が特徴です。 スシローがアジア各国へ多店舗展開を進める一方、くら寿司は米国と台湾を重点市場として育成し、現地でのブランド価値向上に注力しています。
スシロー、くら寿司の直近5期の海外事業実績
直近5期のスシローおよびくら寿司の海外事業実績は、以下のように推移しています。 スシロー スシローの海外事業は、この5年間で大きく成長しました。 2021年9月期は新型コロナウイルス感染拡大に伴う営業規制の影響を受け、営業損失12億800万円を計上しました。一方で、各国・地域での事業基盤の整備を進めており、EBITDA(利払いや税引きなどの影響を除いた損益)は黒字を維持しています。 2022年9月期以降は各国で営業規制の緩和が進み、業績は急速に回復しました。中国本土や台湾、シンガポールなどで新規出店を進めたことも追い風となり、売上高は382億9800万円、営業利益は21億9100万円へと改善しています。 その後も中国本土を中心に店舗網を拡大するとともに、マレーシアなどの東南アジアに進出。海外事業の売上高は2021年9月期の169億8300万円から2025年9月期には1314億2000万円へと約8倍に拡大し、営業利益も203億4000万円まで成長しました。 店舗数も59店舗から234店舗へ増加しており、海外売上高比率は7.1%から30.6%へ上昇しています。現在のスシローは、中国本土と東南アジアを成長エンジンとして、海外事業が全社業績をけん引する段階に入りつつあるといえるでしょう。 くら寿司 くら寿司の海外事業も、この5年間で着実に規模を拡大しています。 2021年10月期は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けました。米国では営業規制や営業時間短縮が続き、北米事業は経常損失10億8000万円を計上。台湾を中心とするアジア事業でも店内飲食の制限が実施され、経常損失1億3600万円となりました。その結果、海外事業全体では売上高160億3000万円、営業損失12億1600万円となっています。 その後は行動制限の緩和や新規出店の進展を背景に、北米・アジアともに売上高と店舗数が拡大しました。海外事業全体の売上高は2021年10月期の160億3000万円から2025年10月期には687億100万円へと4倍超に成長し、店舗数も72店舗から139店舗へ増加しています。 一方で、利益面はスシローと比べて安定感を欠いています。北米事業では新規出店の加速に伴う先行投資に加え、人件費や原材料費の上昇が収益を圧迫し、2024年10月期には再び赤字となりました。アジア事業は黒字を維持しているものの、利益水準には変動が見られます。 それでも、米国では店舗網の拡大に加え、「ビッくらポン!」やアニメ・キャラクターとのコラボレーションといった体験価値を武器に認知度を向上。台湾でも日本発の回転ずしブランドとして支持を広げています。 2025年10月期の海外売上高比率は28.0%となっており、くら寿司にとっても海外事業は成長を支える重要な柱になりつつあります。
なぜスシローはアジアに、くら寿司は米国から攻めた?
スシローとくら寿司は、ともにコロナ禍を乗り越えながら海外事業を拡大してきました。しかし、両社が成長の軸としている市場は大きく異なります。先述したように、スシローが中国本土や台湾、東南アジアを中心に店舗網を広げているのに対し、くら寿司は米国と台湾を主戦場として事業を拡大しています。 同じ回転ずしチェーンでありながら、なぜ両社は異なる地域に経営資源を集中させたのでしょうか。その背景には、それぞれの強みやビジネスモデルの違いがあります。
スシローはアジアで寿司を「日常食」に
スシローがアジアを重点市場とした背景には、自社の強みである品質とコストパフォーマンスを生かしやすい環境がありました。 台湾や香港、シンガポールなどでは、日本食や寿司に対する認知度が高く、生魚を食べる文化への抵抗感も比較的小さいとされています。そのため、日本国内で培った商品力や店舗運営のノウハウを大きく変えることなく展開しやすい市場でした。 実際、中国本土でも寿司人気は高まっており、2024年8月に北京1号店を開業した際には長時間の待ち時間が発生するなど、高い関心を集めました。 また、スシローの強みは寿司そのものだけではありません。日本国内で長年磨いてきたデータ活用の仕組みも海外展開を支えています。 同社は皿にICタグを取り付け、レーンを流れる寿司の販売状況や滞留時間をリアルタイムで管理しています。さらに、年間10億件規模の販売データを活用し、各店舗で需要を予測。どのネタをどのタイミングで提供するかを判断することで、鮮度を維持しながら廃棄ロスを抑える仕組みを構築しています。 こうした日本で培ったオペレーションを海外店舗にも展開することで、高品質な寿司を比較的手頃な価格で提供できる体制を築いています。 つまりスシローは「寿司を特別な日のごちそうではなく、日常的に利用できる外食へと広げること」が可能な市場としてアジアを選び、成長につなげてきたと考えられます。
同じ回転ずしでも、海外戦略は大きく異なる
ここまで見てきたように、両社は同じ回転ずしチェーンでありながら異なる成長戦略を描いています。 スシローはアジア各国で店舗網を広げる「面的な拡大」を進めているのに対し、くら寿司は米国を海外成長の起点としながら、台湾を含めた重点市場でブランド力を高める戦略を取っています。 国内市場の成長余地が限られるなか、海外事業は両社の将来を左右する重要な柱となっています。今後は単純な出店数だけでなく、各市場でどれだけ収益性とブランド力を高められるかが競争の焦点となるでしょう。
著者紹介:宮本建一
大阪府立大学経済学部卒。第二地方銀行にて預金・融資業務、消費者金融では債権回収、信用組合においては融資・経理・審査管理に従事。 現在はフリーライターとして、資金調達・資金繰り、銀行融資、ファクタリング等の金融ジャンルを中心に執筆する。 審査・回収・債権管理といった現場経験を踏まえ、制度や数字の解説にとどまらず、実務上の論点や注意点まで整理して提示することを得意とする。 中小企業の資金繰り改善や金融機関対応に関する記事実績多数。金融機関向け通信講座教材の企画・執筆経験あり。 執筆・監修等のご相談はお問い合わせフォームより。
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くら寿司は米国を成長の起点に「体験価値」で勝負
くら寿司は2009年に米国へ進出し、海外事業の足がかりを築きました。その後は台湾にも進出していますが、現在も米国市場は海外成長を支える重要な柱となっています。米国市場へ進出した背景には、寿司市場の成長余地に加え、自社独自の店舗体験を差別化要因として生かせる環境がありました。 当時の米国では、高価格帯の寿司店とスーパーなどで販売される低価格帯の商品との間に大きな空白がありました。くら寿司はその中間に位置するファミリー向けの寿司チェーンとして市場開拓を進めました。 ただし、米国市場では高い人件費や人手不足が大きな課題となります。そこで強みとなったのが、くら寿司が長年磨いてきた自動化・省人化の仕組みです。 注文システムや皿の自動回収システム、抗菌カバー「鮮度くん」などを活用することで、店舗運営の効率化を図りながらサービス品質を維持しています。 さらに、こうした仕組みは単なる省人化にとどまらず、来店体験そのものの差別化にもつながりました。代表的なのが「ビッくらポン!」です。一定枚数の皿を投入すると抽選ゲームが始まる仕掛けは、子ども連れのファミリー層を中心に支持を集めています。 つまり、くら寿司は寿司そのものだけでなく、「食事とエンターテインメントを組み合わせた体験」を提供することで米国市場で独自のポジションを築いてきたのです。 両社の海外戦略を整理すると、スシローは寿司文化との親和性が高いアジア市場を中心に店舗網の拡大を進めてきました。一方のくら寿司は、米国を海外展開の足がかりとしながら台湾にも進出し、独自のテクノロジーや店舗体験を武器にブランド価値を高めてきました。同じ回転ずしチェーンでありながら、「広く展開するスシロー」と「重点市場を深く開拓するくら寿司」という違いが見えてきます。
スシローとくら寿司、海外戦略の今後
スシローとくら寿司は、それぞれ異なる地域で海外事業を成長させてきました。今後の戦略を見ると、スシローはアジアでの店舗網拡大を、くら寿司は米国市場での事業基盤強化を重視していることが分かります。 スシローはアジアで出店を加速 スシローは現在も積極的に海外に出店しています。中国本土や台湾、韓国、タイ、シンガポール、マレーシアなどにも進出しており、2026年3月末時点の海外店舗数は279店舗に達しました。さらに2026年9月期には320店舗超への拡大を計画しています。 また、店舗数拡大と並行して人材育成にも注力しています。現地スタッフやマネジメント人材の育成を進めることで、多店舗展開を支える運営体制の強化を図っています。 さらに今後の展開として注目されるのが米国市場です。海外事業を担当する加藤広慎副社長は、朝日新聞の取材の中で米国で腰を据えて事業を拡大していく方針を示しており、ニューヨーク・タイムズスクエアへの出店計画も発表しています。アジアで培ったノウハウを米国市場でどこまで生かせるかが、次の成長テーマとなりそうです。 くら寿司は米国で300店舗体制を視野に くら寿司は米国市場への投資を継続しています。米国子会社「くら寿司USA」は、中長期的に300店舗体制を目指しており、今後も年間20店舗前後の出店を続ける方針です。 米国事業は売上高こそ拡大しているものの、新規出店や人件費上昇の影響で利益は安定していません。そのため、今後は店舗数拡大に加え、収益性をどのように高めていくかも重要な課題になります。 また、2026年にはドナルド・トランプ米大統領がくら寿司USA株を保有していることが判明し、大きな話題となりました。業績への直接的な影響は不透明ですが、米国市場における認知度向上につながる可能性があります。
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