公園では突然木が倒れ、道路では街路樹の大枝が歩道に落ちる──そんなケースが、全国で静かに増えている。台風でもない日に、なぜ木が折れたり倒れたりするのか。 【危険】根元が腐って空洞に…伐採されたソメイヨシノ〈写真多数〉 * * * ■砧公園で相次いで5本が倒木 「公園内のあちこちで倒木が発生して、歩道が封鎖されて通れない。遊具のあるエリアにも入れない」 4月中旬、東京都世田谷区にある都立砧公園の各所には、立ち入り禁止のテープが貼られていた。 毎日のようにこの公園に散歩に通う80代の男性はそう話し、「これでは公園として機能していないですよ」とつぶやいた。 砧公園は広大な敷地の多くを樹林地が占める。ソメイヨシノなど約840本のサクラをはじめ、ヒマラヤスギやケヤキなどの大木も多く、都市にいながら緑を感じることができる。 だが、3月から4月にかけて5本もの木が倒れ、危険防止のため立ち入り禁止エリアが設けられた。 ■樹木医の診断のため立ち入り禁止エリア拡大 最初の倒木は3月7日。ソメイヨシノが倒れ、下敷きになった70代の女性がけがをした。翌8日には駐車場近くのヒマラヤスギが倒れ、駐車中の車2台が巻き込まれた。4月2日に再びソメイヨシノ、7日にはコナラが2本同時に倒れた。 東京都は4月8日、同公園の樹木の管理体制のレベルを引き上げ、樹木医による集中的な診断を行うため、翌日からもともとあった立ち入り禁止エリアを拡大した。 「これから暑くなるのに、ベンチのある木陰はほぼすべて封鎖されているから、日差しを避けて休めない。いつまで封鎖が続くのでしょうか」(冒頭の80代の男性) 同公園を管理する東京都公園協会に問い合わせると、「樹木診断を鋭意進めていますが、いつ終わるかはまだ見通せません」(担当者)と言う。診断対象の木は5000本にものぼるという。 ■専門家が見た異変 最初に倒れたソメイヨシノの状況を観察した日本樹木医会副会長で樹木医の和田博幸さんは、こう語る。
■樹木に「老齢化」の波 都市部の木には「老齢化」の波も押し寄せている。 戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、全国で公園整備や街路樹の植栽が進み、サクラやケヤキ、イチョウなどが大量に植えられた。それから60~70年が経ち、当時植えられた木々が一斉に高齢期に入っているのだという。 樹木は年齢を重ねると水や養分を枝の先端まで運ぶ機能が衰え、根の張りも弱くなる。都市部では舗装や交通量の多さで根が伸びられる地下空間が限られ、乾燥や酷暑というストレスも加わる。こうした条件が重なると、木は健康を保つのが難しくなる。 ■多くの木に「倒木リスク」 つまり、全国の公園や道路で多くの木が「倒木リスク」を抱えているとみていい。 だが、和田さんは、「倒木リスクのある木はすべて切れ」という声が上がることを懸念する。 「木は危険なものではありません。警戒すべきは『管理が追いつかない状態』です。木を伐採すれば、倒木リスクは避けられるかもしれませんが、都市の環境は確実に悪くなる」 都市の木は、日陰をつくり、気温を下げ、雨水を吸収し、住民の心を癒やす重要なインフラだ。 「だからこそ、定期的に点検を行い、安全を担保する必要があります」(同) ■自治体により予算に差 こうした状況を受け、国交省は今年3月、「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」を公表した。自治体ごとに異なっていた点検基準をそろえ、外観確認に加えて専門家の診断や機器調査を組み合わせるなど、点検の流れを全国で標準化するねらいだ。 しかし、運用には課題が残る。 街路樹や公園樹木は膨大な本数にのぼる一方、点検・剪定・更新にかけられる予算は自治体によって大きく差がある。財政が厳しい自治体では、必要な頻度で点検を行うこと自体が難しい。 東京都が管理する都道の街路樹は65万5215本(25年4月1日時点)。26年度の管理費は約89億円で、22年度の約68億円から4年間で1.3倍に増えた。都建設局の担当者は「物価上昇などを加味し、予算を増やしています。現状の予算で業務に支障は出ていない」と説明する。 ■自治体の59%が点検「未実施」 前出の国交省の調査では、59%の自治体が公園植樹について「定期点検を未実施」と回答した。 「財政力のある東京都とは違い、地方自治体では予算が足りず点検を発注できない。もしくは、以前は100万円で100本見られたのが、今は同じ金額で70本しか見られない。人件費も上がり、時間もかけられないといった問題があるのではないか」(和田さん) 砧公園の倒木は、たまたま起きた事故ではない。 高度成長期に一斉に植えられた木々が老齢期を迎え、管理が追いつかない――。日本全国の都市が抱える課題の「縮図」なのかもしれない。 (AERA編集部・米倉昭仁)
米倉昭仁
■根の内部がスポンジ状に 「樹齢60~70年ほどの大木でしたが、幹を支える一部の根の内部が腐り、スポンジ状になっていました。木の重心が道(サイクリングコース)側に偏っていたこともあり、耐えられなくなって倒れたのでしょう」 ソメイヨシノの根を腐らせたのは、腐朽菌の一つ「ベッコウタケ」と見られる。根の中心部は腐っていても外側の組織は生きているため、水を吸い上げ、葉は茂り、一見すると「元気」な木だ。だが、腐った根には幹を支える力は失われていた。 「街路樹などのサクラが倒れる原因はベッコウタケによるものが多いです。木の自立する力が弱まり、雨や風などをきっかけとして根ごとバタンと倒れる」(和田さん) 針葉樹のヒマラヤスギは、大きく育つ割に根のサイズが小さく、根が健全に張らないと倒れやすい樹種だという。都公園協会の調査でも、砧公園の駐車場わきのヒマラヤスギの根は腐朽が進んでいた。 ■全国で増える倒木 連続する倒木は、「局所的な出来事ではない」と和田さんは言う。 「砧公園に限らず、近年、倒木が急激に増えています」(同) 国土交通省が2025年にまとめた調査では、公園樹木の倒木等の事故件数は、21年度121件、22年度179件、23年度316件。21年4月~24年11月の3年半で、公園や道路で倒木・枝折れなどの被害が計1732件発生し、そのうち人身事故は110件にのぼる。 公園樹木の都道府県別では東京都179件、埼玉県82件、神奈川県76件、愛知県60件、千葉県49件と、東京都が突出して多い。 ■環境の変化で木が弱る その理由について、和田さんは「環境の変化に木が耐えられなくなっている」と指摘する。 「ここ数年、夏は猛暑が続いています。例えば、東京では昨年から今年にかけて60日近くほとんど雨が降らなかった。夏の高温や乾燥によって木が弱りますし、それにより腐朽菌も侵入しやすくなる」(同) 木は弱ると、普段なら防げるはずの腐朽菌の侵入を止められなくなるという。
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