スーパーの鮮魚売り場が、静かに縮小している。並ぶのは、似たり寄ったりの切り身と干物ばかり——。 【衝撃写真】まるで魚のテーマパーク…角上魚類の売り場や人気商品をじっくり見る 「魚離れ」が叫ばれる時代に、魚しか売らない専門店・角上魚類。創業から半世紀、ほとんど減収を経験していない。「魚離れじゃなくて、売る側がなくなっているだけ」と語る担当者の言葉には、大手スーパーマーケットが切り捨ててきたものへの、静かな反論があった。
ド派手な舟盛り、見慣れない魚…スーパーの鮮魚売り場では見られない光景が広がる
週末の昼どきに店内に入ると、売り場の一角に人だかりができていた。陳列された商品をよく見ようと、スローペースで人波が動いていく。 「お父さんがこれ好きだから、こっちにしようか」 「うわー、どうしよう。迷っちゃう」 お客が吟味していたのは、刺身パックだ。ただ、そこに並んでいたのは、筆者が想像していたものとは少し違う。旬のアオリイカが「ドン!」とメインに据えられた刺し盛り。淡いピンク色をした、聞き馴染みのない魚の柵。思わず二度見するほど、大きな舟盛りまであった。 刺身コーナーを抜けると、そこにはもう一つの人垣があった。見れば、陳列棚の端から端まで、水揚げされたばかりの魚たちが、そのままの姿で並べられている。ノドグロ・ヘダイ・岩牡蠣・活ほや——普段見かけない魚介類が身を寄せ合っていた。アナゴはその長い身をアピールするようにテラテラと光を反射しており、「どうやって食べるのか」としばらく見つめ合ってしまった。 筆者が訪れたのは、関東を中心に22店舗を展開する鮮魚専門のチェーン店、「角上魚類」だ。専門店と言うだけあって、売り物はもちろん魚と一部の海産加工品だけ。青果・精肉・日用品などは、一切販売していない。 筆者が通う地元のスーパーマーケット(以下、スーパー)では、「魚が丸々一尾」という体裁ではほとんど売られていない。大部分が干物や冷凍品で、あとは刺身と切り身のパックが少々並ぶくらいだ。ほぼ毎日、似たような商品が品出しされ、決まったものを手に取っている。 同じ「魚売り場」とは言え、なぜ一般的なスーパーと角上魚類でこれほどまでの差が生まれているのか。その答えを探ってみると、近年叫ばれている「日本人の魚離れ」に関するちょっと意外な事実が浮かび上がってきた。
問題の根本は「消費者の魚離れ」ではない?
筆者と同じく、スーパーで魚を買う際に「品揃えが寂しい」と感じる人は多いのではないだろうか。調べてみると、どうやら全国で鮮魚売り場の縮小が進んでいるらしい。 2025年版「 スーパーマーケット年次統計調査 」によると、前年と比較して水産部門のSKU数(取り扱い品目数)が「減った」と回答した企業の割合は、16.4%に上っている。これは「非食品」に次いで2番目に高い減少率で、畜産(6.1%)・青果(8.2%)と10ポイント前後の乖離があることからも、鮮魚売り場だけが突出して縮小していることがわかる。 そんな状況を反映してか、近年メディアで「魚離れ」という言葉を耳にすることが増えた。水産庁の令和6年度版「 水産物消費の状況 」では、国民1人当たりの年間魚介類消費量が、2001年度のピーク時(40.2kg)から約2分の1(概算21.4kg)へと、年々下降の一途を辿っていることが示されている。 日本人は魚を食べなくなってしまったのだろうか。だが、角上魚類ホールディングス株式会社の鶴見雄一さん(経営企画本部 本部長)は、こう切り返す。 「実際は魚離れじゃなくて、売る側がなくなっているだけだと思います」 根拠として示されたのは、同社の売上高だ。1976年の創業から増収ベースで業績を拡大しており、コロナ禍(2020年3月期)以降の5年間では、売上高が約30%も伸長している。「魚離れ」が叫ばれている一方で、なぜか「魚しか売らない店」が成長を続けている。その理由を紐解くと、一般的なスーパーが「合理的」と判断し、切り捨ててきたものにヒントがあった。
なぜスーパーは「鮮魚売り場」を縮小させてきたのか
魚は、販売するのが難しい商品だ。青果や精肉と比べると、日々の品質管理に手間がかかる。また、鮮度が落ちるスピードが早く、ロス(廃棄)も出やすいため管理方法を誤ればもろに利益を直撃する。 そのため、画一化された大手チェーンでは、取扱量や品目を減らしたり、鮮魚よりも管理が楽な干物を増やしたりと、工夫を凝らしてきた。昔ながらの対面販売の売り場を、シンプルな陳列棚に変えるという、合理的な判断が繰り返されてきたのである。 だが、その積み重ねは、次第に鮮魚売り場の魅力を静かに奪っていった。品揃えが減れば、訴求力が失われる。すると、さらに魚が売れなくなり、段々と売り場を縮小させる——この悪循環が、全国で進行してきたのだと考えられる。 「売る側が『効率を優先させた』結果、消費者が魚を手に取る機会が徐々に失われているのではないか」 鶴見さんは業界全体の構造を、このように俯瞰している。では、同社はなぜ管理に手間がかかり、一つ間違えば利益を一気に失う恐れがある魚のみで、商売を続けられているのか。その鍵は、「ロスを極限まで減らす仕組み」と「独自の仕入れ体制」にあった。
コロナ禍で売上構成に変化
現在の売上構成比は、柱である寿司部門が約25%を占めている。これに刺身を含む鮮魚、惣菜の2部門を合わせると、売上全体の約63%に達する。興味深いのは、この比率がここ数年で大きく変わったことだ。以前は刺身などを含む鮮魚部門が売上を牽引していたが、コロナ禍を機に寿司が台頭するようになった。 「外食が制限された時期に、家でちょっといいものを食べようと、お店に来る人が増えました。若い客層が増えたのは、この時期ですね。一度来店してくださったお客様がリピーターになってくれた感覚があります。あのときは、死ぬほど忙しかったですね(笑)」(鶴見さん) 後編 では、魚しか売らない専門店がここまで支持されている背景と、一般的なスーパーが縮小させている「対面販売」にこだわる理由について、深掘りする。 誰が「スーパーの魚売り場」をつまらなくしたのか 角上魚類が考える「日本人サカナ離れ説」に潜む“ウソ” へ続く
弓橋 紗耶
ロスを出さない「角上ならでは」の構造とは?
全国のスーパーにおける水産部門のロス率は、平均で1.8%とされている(2025年版「 スーパーマーケット年次統計調査 」による)。角上魚類の全店平均は、これを大きく下回る数値を記録している(詳細は非公表)。その理由は、「段階的に加工する仕組み」にある。 同社では丸魚(加工される前の1匹丸ごとの状態)が売れ残りそうになると、折を見て刺身や寿司、惣菜へとバックヤードで加工を行う。時間帯や客層、その日の売れ行きによっても販売方法を変えることで、ロスを限りなくゼロに近づけているのだ。 「魚の鮮度が高いうちに売り切ればロスを減らせるし、次に入荷した魚をすぐに売り場へ並べられます。すると、常に鮮度のいい魚しか、店頭に並んでいない状態にできるんです。加えて、売れれば売れるほど大量の仕入れができるようになるので、圧倒的な品揃えが生まれる、というわけです。実は、買っていただいているお客様によって、鮮度が維持されているんですよね」と常務取締役の吉田努さん(商品企画本部 本部長 )は説明する。 スーパーが「非効率的」として切り捨ててきた部分を、角上魚類では1つの大きな連鎖として設計してきたことで乗り越え、かつ魅力を高めるきっかけとしてきたわけだ。
「海なし県」に集中出店しているワケ
この連鎖を支えているのが、独自の仕入れ体制だ。同社では新潟市場に7人、豊洲市場に6人、計13人のバイヤーが毎朝鮮度の良い魚を買い付けている。バイヤーを務めるのは、店舗で包丁の技と販売の経験を積み、管理職として実績を上げた精鋭社員だ。「今の時期は何が売れるか」「この値段ならどのくらいの販売数が見込めるか」——現場の感覚が体に染み込んでいるため、実態に即した仕入れを行えている。 関東の各店舗は、豊洲市場で仕入れたものは朝一番に、新潟市場で仕入れたものは昼頃に到着する。日本海の魚が都内の店に届くまでは、最短9時間。同社のキャッチコピーである「日本海まるごとやってきた」を体現するため、店舗は必ず関越自動車道沿いに展開している。 さて、現在店舗が集中しているのは、創業の地である新潟——ではなく埼玉県だ。「海なし県」は、美味しい魚を食べられる環境が整っている、とは言い難い。だからこそ、角上魚類は「新鮮な魚を届けること」に意義を感じている。 余談だが、発泡スチロールの箱に魚を詰めて配送する方法は、創業者兼会長である栁下浩三氏が考案したものだ。かつて、魚を輸送する際は木箱にビニール袋を入れ、そこに氷水を満たして運んでいた。しかし、特注の発泡スチロールの箱を使ったところ、従来よりも鮮度が保たれ、築地で高値がついたという。今や、その知恵は業界全体に浸透している。 「規格が数ミリでも違うと別物扱いになる、ということで特許取得は断念したのですが……もし取れていたら、うちは資材屋さんだったかもしれませんね(笑)」(鶴見さん)
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