ジャイアントパンダが日本から姿を消して4か月あまり。1972年の初来日時に公開された劇場アニメ「パンダコパンダ」が、半世紀の時を経て再び人気を集めている。演出を手がけたのは、後にアニメ界の巨匠となる高畑勲さん(2018年に死去)だ。妻のかよ子さん(86)は、映画化に情熱を注いだ若き日の夫の姿を今も思い出す。(松下聖) 【写真】映画「パンダコパンダ」公開時のポスター
「トトロ」の原型
宇都宮市でこの春、映画をテーマにした展覧会が開かれ、親子連れや若者の人だかりができた。返還直前のパンダに別れを告げるため、和歌山県の「アドベンチャーワールド」まで出向いたという女性(34)は「次の子が来るまで心のすき間を埋めてもらう」と笑った。
映画は、しっかり者の少女・ミミ子の家にパンダの親子が居候し、奇妙な共同生活が始まる、という30分ほどの中編作品だ。演出を高畑さん、原案と脚本・画面設定を宮崎駿さんが担当し、東京の上野動物園でパンダの公開が始まった年に上映された。作風やキャラクター像から、ファンの間ではスタジオジブリの大ヒット作「となりのトトロ」(1988年)の原型とも呼ばれている。
動画配信サイトで人気に火
版権を管理するトムス・エンタテインメント(東京)によると、動画配信サイトで人気に火がつき、各地の巡回展には4万人超が詰めかけたこともある。関連グッズの売上高は以前の10倍を超え、今年1月に上野動物園から最後のパンダが中国へ旅立ってからも、ブームは続いている。
高畑・宮崎作品に詳しい映像研究家で東京造形大の叶精二教授によると、食事など日常風景の丁寧な描写を得意とする高畑さんと、ファンタジー要素や快活でかわいらしいキャラクターを生み出す宮崎さんの特長が、巧みに融合されているという。叶教授は「2人の原点とも呼べる作品。『子どもたちを笑顔にしたい』という制作陣の志が画面からあふれ出ている」と評する。
上野動物園の2~3月の来園者数は約50万人で、前年同期から10万人以上の減となった。同園の担当者は「常に行列ができる人気者で影響は大きい」と気をもむ。日中関係に改善の兆しは見えず、パンダ舎は空き家のままだが、同園では遊具の新設や改修を済ませて再来日に備えている。
「楽しんで作っていることが伝わってきた」
「楽しんで作っていることが伝わってきた」。彩色担当スタッフとして、高畑さんと同じ会社に籍を置いたかよ子さんは、映画にとりわけ深い愛情を寄せていた夫の様子を覚えている。
「動作はドッジボールがころがるような感じ」「鍋を抱きかかえてペロペロとなめつくす」。自宅に残るパンダの写真集には、生態を説明した文章にいくつもの下線が引かれている。制作前に高畑さんが取り寄せていたものだ。かよ子さんは「資料が少ない時代に参考にしたのでは」と話す。
映画には記述通りに生き生きと動くパンダが描かれた。夫婦で劇場を訪れた時のことを「走り回っていた子どもたちが、じっと見入り、最後には主題歌を大合唱してくれた。夫はとても喜んでいた」と懐かしむ。
高畑さんの葬儀では、祭壇に置かれたぬいぐるみが一家とともに高畑さんを見送った。かよ子さんは「50年以上も愛されるなんてすごい。私たちにも幸せをくれた映画です」とほほ笑む。
◆高畑勲=1935年生まれ。東大卒業後に東映動画に入社。70年代に「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」を制作し、85年に宮崎駿監督らと「スタジオジブリ」を設立した。代表作に「火垂(ほた)るの墓」「平成狸(たぬき)合戦ぽんぽこ」など。98年に紫綬褒章を受章した。
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