〈発売中の『婦人公論』6月号から記事を先出し!〉 シリアスからコメディまで多彩な役柄を演じ、活躍を続ける唐沢寿明さん。今年1月には、妻で俳優の山口智子さんとともに、個人事務所「TEAM KARASAWA」を立ち上げました。62歳にして新たなスタートを切った理由とは。(構成:丸山あかね 撮影:小林ばく) 【写真】ドラマ『西遊記』の時、事務所に抗議の電話や手紙が殺到して… * * * * * * * ◆負けじと頑張る俳優としての性 唐沢さんが演じたのは、推理クイズ番組『ミステリー・アリーナ』を盛り上げる天才司会者・樺山桃太郎。巨額の賞金を懸け、とある殺人事件の犯人捜しに挑む解答者6人を、容赦ない皮肉や毒舌で追い込んでいくクレイジーな役どころだ。 ——映画を観た人は全員、「なんだこいつ」と思うんじゃないでしょうか。樺山というのはひどい男で、パワハラ全開だし、卑怯だし。正直、ここまで救いようのない役は演じたことがない。 でも、だからこそ挑もうと思ったんです。好感度を気にして役を選ぶ俳優もいるけど、結局、誰かが演らなくちゃいけないわけで。どうせなら徹底しようと考えて撮影に臨みました。 この男には1ミリも共感できなかったけど、世の中には理解不能な人っていますからね。政治家でも、どう考えても嘘をついていてシラを切るには無理があるのに、強引に正解に繋げちゃう人っているじゃない。 樺山にしても、自分本位な正義感がある。本人は「俺、ダメなの?」と本気で思っているから腹が立つんです。僕自身、彼にはずっとイライラしていました。(笑)
今作の肝は、お客さんをいかに巻き込んでいくか。役作りに関しては、自分なりにいろいろと考えました。当初は普通に背広を着て登場する予定でしたが、アフロヘアとサングラスに派手なスーツ姿で、ファンキーにしたほうがいいんじゃないかと提案したり。 お客さんは俳優本人のイメージを役に当てはめてしまいがちなので、作品に入り込んでもらうためには、誰が演じているのかわからないくらいがちょうどいいと思ったんです。 ここから先はネタバレになるからあまり話せないけど、僕は今回、目くらましのような役回りでした。だから目線にも気を配る必要があったし、隙を与えないように、長ゼリフを機関銃みたいに話さなければならなかった。それが大変だったかな。 正直、原作の小説を読んだときに映像化は難しいと思ったんですが、出来上がった作品は見ごたえ満点。個人的には、観ている人が自ずとミステリーのなぞ解きを始めてしまうという、視聴者参加型の映画になっているのが斬新だと思う。 それに、荒唐無稽なシチュエーションでも、観ているうちに不思議と現実味を帯びていくんです。これはまさしく堤幸彦監督の手腕によるもので、彼のすごさを改めて痛感しました。 今回、天才少女を演じた芦田愛菜さんをはじめ、浅野ゆう子さん、野間口徹さんなど、個性的な6人の解答者も最高でしたね。それぞれに自分の推理を披露する長い見せ場があって、しかもワンカットで撮るということで、現場には緊張感が漂っていました。 そんななかで、誰かがいい芝居をすると、周りも触発されて負けじと頑張る。自分もいいところを見せたくなってしまう。これは俳優の《性(さが)》です。その姿がまた美しいんですよ。 みなさんの芝居を見ていて、とてもワクワクしました。監督も、予想外の芝居に合わせて演出を変えたりして。俳優って面白いな、この仕事を選んでよかったなと思いましたね。
◆彼女のためになら演じられる 俳優を続けてきて得たものは、数え切れません。ご縁にはとくに恵まれたと思います。NHK連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』に出演したのは、25歳のとき。 当時まったく売れていなかったけど、大阪で舞台公演を終えた直後、マネージャーから「NHKに挨拶だけしに行こう」と言われ、ある演出家と会って。それがきっかけで朝ドラへの出演が決まったんです。 後で聞いたら、僕が演じることになった役の大々的なオーディションをしていたけどいまひとつ、というタイミングだったとか。本当にラッキーでした。あの作品でうちの奥さん(俳優の山口智子さん)に出会ったしね。 彼女とは7年の交際を経て結婚し、30周年を迎えました。仲はいいけどベタベタしているわけではなく、精神的に自立している同士だから続いたんじゃないかな。お互いにリスペクトしているし。本当はもっと頼ってくれてもいいんだけど、彼女はそういうタイプではないからね。 どこが好きかと聞かれたら、《顔》と答えます。だって、顔は四六時中見るんだから。オッパイの大きさで相手を選ぶ男もいるけど、絶対に飽きるでしょう(笑)。顔つきは内面の成長とともに変わる。顔が好きというのはそういうことです。
今年1月には、長年お世話になった事務所を夫婦で退所し、個人事務所「TEAM KARASAWA」を立ち上げました。僕が全部背負わなきゃいけないようなネーミングになっていますが、名づけたのは彼女です。もっと別の名前はなかったのか聞いたけど、「それしかなかった」って言うんだよ。(笑) 実は、これまで所属していた事務所の創業者が一昨年、亡くなられてしまったんです。その方には本当にお世話になって、僕が事務所に入った20代のとき、彼に「アンタが死ぬまでやめないから」と伝えたほど。笑い話みたいですけどね。 僕は昔から、誰かのためにでないと演じられない。作品を観た人に勇気や希望を与えるのが俳優の仕事なんだけど、仕事を続けるうえで縁とか義理みたいなものを原動力にしているというか。 たとえば今回の映画をお引き受けしたのも、20年近く前に映画「20世紀少年」シリーズでお世話になった堤監督だったから。 それゆえに、創業者が亡くなって目的を失い、一瞬「これから誰のために演じればいいのだろう」と思ってしまった。そんなとき、うちの奥さんが「このあたりで初心に戻って、リスタートするのもいいよね」と言うのを聞いて、彼女のためになら演じられるなと思い、独立に踏み切りました。 これからも、主演だろうが脇役だろうが関係なく、面白い作品との出合いがあれば嬉しいですね。僕はもともと先陣を切って走るのは苦手なんです。なのに「あれやれ、これやれ」と周りに言われて前に出され——まあ、そのおかげで今があるわけですが(笑)。 とはいえ、今も表に出ることにこだわってはいないので、自分で楽しい企画を考えて実現できたらいいな、と。今年63歳になるけど、今は70代も80代もみんな元気じゃない? ケセラセラの精神で、これからも歩んでいこうと思っています。 (構成=丸山あかね、撮影=小林ばく)
唐沢寿明
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