マーラータンの勢いは、2026年に入っても続いている。専門店の出店が相次ぎ、外食チェーンや食品メーカーも関連商品を次々と投入するなど、もはや一部の「ガチ中華」好きだけの食べ物ではなくなった。 【写真】外食チェーンも続々参入、“魔改造”されるマーラータンの数々 店舗データを扱うReviewが、全国470カ所の保健所の開業情報をもとに独自に分類・集計したデータによれば、中華ジャンル全体の新規開業数は22年から25年にかけて約31%減少した一方、Reviewの分類による「麻辣湯専門店」の新規開業数は同期間で約8.5倍に増加した。さらに25年11月時点では、中華ジャンルの新規開業のうち13.4%を同専門店が占めていたという。
マーラータンのトレンドをウォッチしていると、最近はほかの商品との差別化のためか、アレンジされたものが増え、その定義までもが変わりつつある。日本に定着していく過程で、独特なかたちに“魔改造”されつつあるマーラータンの移り変わりを見ていきたい。 ■魔改造マーラータンの出現 いまやマーラータン業界の2大ブランドともいえる中国発の楊國福麻辣燙や日本発の七宝麻辣湯の流行を受けて、24年以降、飲食チェーンや食品メーカーからマーラータン関連の商品・メニューが相次いで発売された。
バーミヤンでは少し早い24年3月からマーラータンを期間限定で提供開始し、25年にも再び登場した。日清食品も25年にカップヌードルのマーラータン味の商品を期間限定で発売し、26年4月に再登場した。大阪王将やデニーズなどでも同様の商品が発売された。 マーラータンのトレンドに乗るように、各社がこぞって自社の商品と掛け合わせたようなマーラータンを開発しているわけだが、面白いのはその姿が少しずつ変化してきていることだ。
水道橋近くに26年4月にオープンしたTAOTAO麻辣湯は、牛タンの旨みを生かしたスープに、ふんわりとした卵を合わせた一杯を看板メニューにしている。高田馬場や上野などで展開する親愛的麻辣燙は、マーラースープだけでなく、トムヤムクンスープや韓国キムチスープ、沙茶スープ(沙茶醤ベースのスープ)など、バリエーションに富んだスープを提供している。 ほかにも、中国・四川に本店を構える陳麻婆豆腐では、期間限定で麻婆豆腐マーラータンを発売するなど、「麻辣」ではないマーラータンや「麻婆」入りのマーラータンなど中国現地でもあまり見かけないようなアレンジがされていたりするのだ。
日本発のブランドである七宝麻辣湯は、薬膳スープで油も少なめなので、野菜中心の具材にすれば、ラーメンなどに比べて健康的と言えるかもしれない。 一方、中国発の店のスープは基本的に牛骨でだしを取っており、スパイスこそ入っているものの、油の使用もかなり多く、健康的とは言いがたい。中国現地でもマーラータンは、牛丼のようなジャンクフードの一種として認識されており、身体に良いというような推され方はしていない。中国人に「日本人の多くはマーラータンを健康的だと思って食べている」と話すと、笑われるそうだ。健康面で擁護できるとすれば、外食で野菜を気軽にたくさん摂れるというところだろうか。
薬膳スープの印象が強い七宝麻辣湯の存在や、スタイルのいい韓国アイドルが食べているといった影響もあり、「マーラータン=健康的」という広がり方をしている。しかし、そもそも日本に入ってきた時点で、本来のファストフードやジャンクフード的な実態とは違ったブランディングで広がっているのである。 マーラータンの漢字についても、日本独自の表記で広まっている。中国大陸では簡体字で「麻辣烫」、繁体字では「麻辣燙」と表記する。「燙」の字には、熱い湯の中にさっとくぐらせるという意味がある。日本の常用漢字にはない漢字であるため、メディアで表記される場合やSNS投稿では「湯」の字が使われ、今では「麻辣湯」として定着している。
「湯」は中国語ではスープの意味であるため、表す料理の意味は異なるのだが、ここまで定着した今から変わることはないだろう。「麻辣湯」という字を読んで、マーラースープベースの食べ物だと理解されたことで、マーラーすき焼きやつけめんのスープまでひっくるめて「マーラータン」の一部として広まっていったということも考えられる。 ■もともとは中国でもアレンジされて広がっていった マーラータンがアレンジされているのは、日本だけで起きている現象ではない。もともとは中国・四川省がマーラータンの発祥といわれているが、辛いものを好んで食べる四川のマーラータンは、唐辛子や花椒が多用されており、真っ赤なスープが特徴的だ。
■しゃぶしゃぶ、つけめんにもなったマーラータン この流れは、専門店以外にも及んでいる。しゃぶしゃぶ食べ放題チェーンのしゃぶ葉では、火鍋スープの一種として「麻辣湯だし」が選べるようになっている。すき家では「牛・胡麻麻辣湯鍋定食」を販売していた(現在は終了)。牛丼チェーンの鍋商品にまで「麻辣湯」の名前が広がっている点は象徴的だ。 都内を中心に展開するラーメン店のつけめんTETSUでは、26年4月限定で「マーラータンつけめん」なるものまで販売されていた。ここまでくると、もはやマーラータンの面影が薄いものにまで、マーラータンの名が冠されて販売されている状態だ。
さらに最近では、マーラータンの味がするというこんにゃくやパスタスナックなどのお菓子、マーラータンテイストのプロテインまでもが登場している。こうなると、マーラータンは「スープ料理」というより、辛さやしびれ、健康感、トレンド感をまとめて想起させる記号になりつつある。 さらにその影響は食品以外にも及ぶ。スーパー銭湯の期間限定風呂に「麻辣湯(麻辣の湯)」が登場したり、マーラータンを食べても落ちにくいリップが「麻辣湯kiss」として販売されたり、女性アイドルが「麻辣湯アイドル」として売り出されたりと、マーラータンという名前そのものが一人歩きし始めている。
マーラータンブームに乗じて各社が企業努力を見せた結果、多くの“魔改造マーラータン”が生まれた。さらに食品以外の分野にまで名前が広がることで、マーラータンは料理名の枠を超えた存在にさえなっているのだ。 ■マーラータンの定義は日本に入ってきた時点で変わっている そもそも日本のマーラータンブームのきっかけは、韓国で流行っていたことの影響が大きい。「薬膳スープで野菜たっぷりなので健康にいい」という触れ込みで、日本では若い女性を中心に受け入れられていった感があるが、実際はかなり怪しい。
中国においても、すべての地域で辛い食べ物が好まれるわけではない。そのため、四川のマーラータンがほかの地域に持ち込まれた際には、辛さが控えめになったり、マイルドなアレンジが加えられたりした。 日本で流行っている楊國福麻辣燙も、中国の東北部に位置する黒竜江省発祥のチェーン店である。スープに牛骨や粉ミルクを加え、「クリーミーでコクのある飲めるスープ」にアレンジしたことで、幅広い層に受け入れられるようになった。その後、中国全土へと展開していき、店舗数は6000店を突破。さらには日本でもブームとなったのである。
東京の街中を歩いていると、至る所でマーラータンを見かけるようになった。供給が需要を上回る勢いで増えすぎているようにも感じる。加えて、チェーン店などでもこぞってアレンジマーラータンの商品を販売しており、食傷気味になっている感もある。若い女性のブームがマーラータンの次へ移ってしまった際には、タピオカの店が一斉に姿を消した時のような状況になることも想像される。 競争が激化した今、ほかの店のマーラータンと差別化するために、独自のアレンジを凝らした魔改造マーラータンは、今後さらに登場することが想像される。最後はラーメンのように定着していくのか、それとも一時のブームとして消費され、名前だけが別の商品やサービスに残っていくのか。ブームの行く末を見守りたい。
阿生 :ライター
Hao112 ニュース