中高年期にホルモンバランスの変化で様々な体調不良が表れる更年期障害。50代女性の約4割が更年期障害の可能性を感じており(2022年、厚生労働省調べ)、女性の更年期症状がもたらす経済損失は年間約1.9兆円にのぼるとの試算もある(2024年、経済産業省)。一方、中等度〜重度の症状を抱える人でも受診率はわずか9.1%にとどまるという報告もあり、「我慢」が当たり前になっていることが分かる。 「更年期という言葉は戦前からあった」と専門家は語るが、日本において更年期との付き合い方はどう変化してきたのか。当事者や産婦人科医の声から変遷をたどり、我慢の連鎖を断ち切るヒントを探った。(取材・文:小山内彩希/編集:大川卓也、Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「更年期はみんなが追い詰められるもの」と思っていたが、話せる職場環境で不安軽減
頭痛、関節痛、イライラ、めまい、うつ、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)など、更年期には複数の症状が表れる。現代の40代や50代の女性は、仕事や子育て、親の介護などをしながら、更年期症状と付き合っているケースが少なくない。 三好由紀子さん(仮名・49歳)もそのひとりだ。小学校高学年の息子を育てながら、パートで働く三好さんは、2年ほど前に更年期症状を自覚した。 「なんか体が熱いな、と感じたのが最初です。市販の薬で落ち着くこともあったので、しばらくは市販薬で対処していたのですが、だんだん効きが悪くなってきたので、1年前から産婦人科に通っています」 処方された薬で対処しているが、症状が消えたわけではない。「ツラい」とこぼすのは、ホットフラッシュとそれによる不眠。 「夜寝る前にカーッと体が熱くなって、眠れなくなる。息子の塾の送迎のために車を出すんですけど、寝不足で雨の日に当たると、運転が怖いなと感じます。それから、更年期症状なのか、生理がまだ続いているせいもあるのか、イライラして息子に強く言っちゃうこともあって。それで落ち込むこともあります」 更年期との付き合い方は、同世代でも異なると感じている。職場の女性たちは更年期外来にかかっているが、義理の姉は何年も症状に悩みながらも病院に行っていないという。 「もう20年以上前の話になりますが、同僚のお母さんが重い更年期症状に苦しんでいて。『包丁を持った母に追いかけられ、避難した』と聞き、みんなそこまで追い詰められてしまうのかなと、自分が無知だったために不安に感じていました。でも、今の職場では更年期のことを話せて情報交換できるから、自分の状態に対して不安になりすぎることもない。話せる環境があると知識が身に付くし、行動にもつながっていきますよね」
「50代は人生の片付け」から一転。更年期を“さなぎの時期”と捉える世代の変化
更年期世代女性たちの母親は、70代や80代が多い。 介護のために隣県にある母の家に通いながら、そば屋の女将として朝から晩までお店に立つ青柳寧子さんは、約1年前から更年期症状に悩んでおり、介護をする中で母に更年期との付き合い方について聞いたことがあるという。 「母は80歳。ずっと専業主婦で、更年期の諸症状のために婦人科に通ったりはしていなかったそうです。義理の両親の介護をしながら、子どもたちが学校にいる時間に寝たりして、体を休めることで対処していたと聞きました。専業主婦なので自由に使えるお金が少なくて、病院にかかることをためらう気持ちもあったのでしょう。多くの女性がそうやって我慢してきたんだろうと思います。母も当時、口に出すことはなかった。我慢することが当たり前だったから、『いちいち声を上げることではない』と自制してきたんじゃないかな」
母と関わる中で、「私たちの世代は『更年期』を親世代とは少し違った角度から捉えているのかも」と考えるようになった。 「母との会話で印象的だったのが、『50代は人生の片付け』と言っていたこと。その先に何か楽しいことが待っていることをあまり想像できなかったと振り返っていました。でも、私もそうですし、お店で同世代の方と話していても感じますけど、今の50代ってその先の人生を下り坂だと思っている人は少ない。60代で働くことも当たり前になりましたよね。今や更年期は、今後、自分のしたいことをするために、いろんなことを棚卸ししたり調整したりする“さなぎの時期”というふうに、アップデートされているように感じます。そうなったとき、この時期に適切な医療を受けることは、合理的なことだと思うんです」 そば屋の女将として働きながら、ライターとしても活動する青柳さん。 「夫とお店を始める前からの仕事であるライター業をこれからも続けたいですし、創作活動にも力を入れていきたい。更年期症状に対しては、婦人科の先生に薦めていただいた漢方が体質に合っているのか、よく効いているので、今はそれを飲んでいます。ただ、症状も変わっていくものなので、もっと他の医療が必要になったら症状の改善効果があるとされるプラセンタ注射など、医師と相談しながら柔軟に取り入れていきたいです」
長年「日陰の存在」だった更年期。不調を悪化させる大きな要因は“人間関係”
日本において、更年期への意識が高まり始めたのは、いつ頃からだろうか。 「更年期という言葉は戦前からあって一般的にも知られていましたが、治療への関心が高まり始めたのはもっと後のこと。少なくとも1990年代以降でしょう。原因不明の体の不調を不定愁訴(ふていしゅうそ)と言い、更年期には様々な不調が表れますが、それに悩む患者を医者は積極的に診たがらなかった。医者にとってもつかみどころのない不調で、根本的な治療を考える人が極端に少なかったからです。それに患者も、私が東京医科歯科大で診療していた1980年代から90年代は、明らかに更年期症状の出ている人に問いかけても、『私はそんな障害じゃない、更年期症状なんてない』と否定する人が多かった」 こう語るのは、日本において更年期症状と診療が結びついていなかった1992年に「更年期特有の症状の重さを数値化する自己問診票(SMI)」を開発した、日本産婦人科学会専門医の小山嵩夫さんだ。
「更年期は何十年も日陰の存在でしたが、1995年に北京で行われた世界女性会議がひとつの転換点だったと思います」 女性の地位向上を目的として国連の主催で開催された第4回世界女性会議(北京女性会議)には、日本も含めた189カ国の政府代表団などが参加。会議で採択された「北京宣言及び北京行動綱領」では、「女性と健康」が重大問題領域のひとつに挙げられ、思春期から老年期までの女性のライフサイクルに応じた健康支援も強調された。 「その頃から日本でも徐々に、更年期を含めた女性の健康課題について議論されるようになっていった」と小山さんは感じている。 2002年には、更年期およびポスト更年期に関する研究会を設立した小山さん。更年期医療と向き合ってきた半世紀を振り返り、社会の関心の高まりは感じるものの、「医療体制はまだ不十分」と課題も口にする。 「更年期症状への根本的な治療を考える医師が極端に少なかったと言いましたが、今もまだ、少ないままです。更年期症状を診る医師は増えたけど、頭痛が出るから頭痛薬、めまいがするからめまい止め薬、皮膚がかゆいからかゆみ止め、そういう対症療法の域から抜け出せていない。いくらいい薬があったとしても、原因を突き止めないとダメなんです」 女性ホルモン要因とともに考慮しなければいけないのが、環境要因だ。 「更年期症状を引き起こす、あるいは強くする環境要因で一番多いのは、職場や家族など、身近な人との人間関係の悩み。それから、繊細で心の動きに敏感とか、責任感が強いとか、本人の気質要因もあります。そういった悩みや特性を考慮して、医者はしっかり話を聞く。ここまで含めて医療です。薬だけに頼って治療を進めると、更年期治療は中途半端なもので終わってしまいます」
「娘さんの重い生理痛、放置していませんか」更年期治療を超えて親子で知識を橋渡し
「更年期は何十年も日陰の存在だった」という小山さんの話に、更年期治療の歴史コラムを院のサイトに掲載する、白山レディースクリニック院長の中村久基さんも同意を示す。 「私が更年期への意識の高まりを感じたのは、2010年代以降です。2000年代は産科医が不足していた時代でした。それにより分娩場所を探し回る出産難民があふれ、世の中の関心は『お産の場所がないこと』だったんです。私自身はその問題を改善したいと14年前にクリニックを開業しましたが、その頃は今ほど更年期症状を訴える人は多くありませんでした」 産婦人科の主要分野は長年、「周産期」「生殖」「腫瘍」の3本柱だった。だが近年、その状況は変わりつつあるという。 「2011年に日本更年期医学会が『日本女性医学学会』へと名称を変更した頃から、更年期を含めた女性医学の存在感が大きくなってきました。思春期から老年期までのQOL向上を目指す女性医学(女性ヘルスケア)が第4の柱となり、更年期を専門的に診る医師や、関心を持つ若い医師も増えています」 一方、更年期障害の治療方法のひとつであるHRT(ホルモン補充療法)を例に挙げ、医師も知識をアップデートしていく必要性を訴える。 「2002年に米国で出された『HRTは乳がんや脳卒中などのリスクを高める』という研究報告については、その後、『60歳未満あるいは閉経10年以内に行われれば、メリットがリスクを上回る』ケースも報告されています。日本においては2021年から天然型ホルモン薬が使えるようになり、副作用がないとは言い切れませんが、条件によってはリスクを抑えられるという報告もあります。しかし、古い情報のままだと、その治療を必要としている患者さんに対しても『危ないからやめましょう』で終わってしまう。医療現場でも情報のアップデートが必要です」
患者側の意識も課題だ。全国的に受診率は低く、中村さんも患者から「自分の周りの人は病院に行っていない」という声をよく聞く。 「まずは『更年期症状は治療できる』という認識を持つことが必要です。よく『月経困難症は病気じゃないから、重い生理痛でも我慢しなさい』と言う人がいるように、更年期症状も我慢するものだと思っている人が、まだ多い。『母親があれだけ更年期で大変だったのに我慢していたから、自分も我慢しなきゃ』と、家で見ている母親像が次の世代の価値観に影響することもあります」 だからこそ、世代を超えたアプローチが必要だと中村さんは続ける。 「うちのクリニックには、親が子どもを連れてくることも多いです。更年期のお母さんには『娘さんの生理痛はどうですか? 重かったら放置しちゃダメですよ』と伝えます。そうやって世代をまたいで知識を橋渡しすることが大事ですし、お母さんは娘さんを、娘さんはお母さんを、つらそうなら放置しないで病院に連れてきてほしい。更年期症状がなくなったり、今より軽くなったりしたら、きっと世の中は変わりますよ。女性がリーダーになるハードルも下がり、経済成長にもつながるはずです。健康面から男女の機会を均等にしていく、そんな機運が高まっていけばいいと思っています」 --- 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。
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