「なぜナプキンのCMは青い液なの?」。そう疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。かつて、生理用品の広告では青い液体が当たり前のように使われてきました。しかし近年、その表現に変化が起きています。赤やピンクの液体、あるいはより現実に近い描写が使われるようになり、「生理の見せ方」が少しずつ変わり始めているのです。 この変化は単なる広告表現の問題ではありません。そこには、生理に対する社会の価値観の変化、そして女性の健康や尊厳に関わる大切な意味が含まれています。今回は、婦人科医の視点から、青い液が使われてきた背景と変化の理由について解説します。
◇なぜ青い液なのか
ナプキン広告で長年、青い液体が使われてきた理由は大きく見て二つあります。一つは「生理=血」というイメージを避けるためです。赤い液体は「生々しい」「不快」と感じる人が一定数いるため、視覚的な抵抗感を和らげる目的で青が用いられました。 もう一つは、生理を“隠すべきもの”とする社会的な価値観です。生理は長らく「人前で話すものではない」「見せてはいけないもの」とされてきました。そのため、広告でも直接的な表現を避け、あえて現実から距離を置いた表現が選ばれていたのです。 つまり青い液は、不快感を避けるためと同時に、生理を見えなくする象徴でもありました。
◇現実に近い描写へ
しかし近年、この表現に変化が起きています。海外を中心に、ナプキン広告で赤い液体を使用したり、生理中のリアルな日常を描いたりするケースが増え、日本でも少しずつ同様の傾向が見られるようになってきました。この背景には、幾つかの社会的な変化があります。 「隠す」から「理解する」へ これまでの社会では、生理はどこかタブー視されてきました。しかし現在は、「正しく知るべき健康の一部」として捉え直す動きが広がっています。学校教育やSNSを通じて、生理に関する情報に触れる機会も増え、恥ずかしいものではないという認識が少しずつ浸透してきました。 広がるフェムテック・フェムケア 近年、フェムテック(女性の健康課題を解決する技術)やフェムケアという言葉が広まり、女性の体に関する話題がオープンに語られるようになってきました。月経カップや吸水ショーツ、ホルモンケアなど、多様な選択肢が生まれる中で、生理を隠すものではなく向き合うものとして捉える流れが強まっています。 社会的課題にも関心 さらに、生理用品を十分に購入できない「生理の貧困」や、職場・学校での配慮の問題など、生理に関する社会課題にも注目が集まっています。こうした背景から、「生理を見えなくすること自体が問題ではないか」という議論も生まれています。
◇「リアルに見せる」はなぜ大切か
では、生理のリアルな描写にはどんな意味があるのでしょうか。それは、正しい理解と共感を生むことです。 例えば、生理の出血量や不快感、日常生活への影響は、実際に経験していない人にはなかなか伝わりにくいものです。しかし、より現実に近い表現を通して実態を共有すれば、周囲の理解が進みやすくなります。 また、女性自身にとっても「自分の体は普通なんだ」と安心できるきっかけになる場合があります。「こんなに大変なのは私だけ?」と不安を抱えている方にとって、リアルな情報は支えとなるでしょう。
◇それでも不快感抱く人も
一方で、赤い液体やリアルな描写に対して「見たくない」「不快」と感じる人がいるのも事実です。これは決して間違いではありません。感じ方は人それぞれであり、どちらか一方が正しいという問題ではないのです。 大切なのは、見せるか見せないかの二択ではありません。他の選択肢があり、そしてもっと自由に生理について話したり知ったりできる環境をつくることです。
◇社会の価値観映す
ナプキン広告の青い液は長い間、生理を「見えないもの」にしてきました。その表現が変わり始めていることは、社会の価値観が変わりつつある証しでもあります。生理は、女性の体にとって自然で大切な機能の一つで、決して隠さなければならないものではありません。 「話してもいい」「知ってもいい」「理解してもらっていい」。そんな空気が少しずつ広がっていくことで、女性がもっと自分らしく過ごせる社会に近づいていくはずです。 広告の中の小さな変化は、社会の大きな変化の入り口です。これからの「生理の見せ方」が、誰にとっても優しいものになっていくよう願っています。(了)
沢岻美奈子(たくし・みなこ) 沢岻美奈子女性医療クリニック理事長。産婦人科医。 2013年に神戸市で婦人科クリニックを開業。検診や更年期を中心とする女性のヘルスケア領域に長く従事する。更年期ドックでの女性特有の健康評価から治療までを、経験豊富な産婦人科の女医がワンストップで行う。心身の不調に陥りがちな更年期の揺らぎ世代を、「女性医療コーチング」という新スタイルで全人的にサポートしていく。インスタグラム「takumina _clinic」やポッドキャスト「女性と更年期の話」、ユーチューブ「更年期によりそう医師 産婦人科専門医 たくしみなこch」などで情報発信も手掛ける。
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