2023年に解散したBiSHで約8年活動したアイナ・ジ・エンド。ソロになって「革命道中 - On The Way」を国内外でヒットさせ、昨年の「第76回NHK紅白歌合戦」にはソロで初出場を果たした。「革命道中」は、「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の「最優秀楽曲賞」にもノミネート。だが本人は、その成功を決して自分ひとりの手柄とは考えていないという。そして、喜びを「咀嚼する時間が必要」と語るアイナは、なぜそれほど自身を客観的に見られるのだろうか。(撮影:星野耕作/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ハッピーなオーラが自分にはある
2023年、東京ドームで華々しく解散したBiSH。アイナはBiSH時代からソロ活動をしていたが、解散後のソロでの成功を想像できていたのだろうか。 「全然思ってなかったし、売れるっていう自信はなかったですけど、自分にはいい仲間がいるし、ハッピーなオーラが自分にはあると思うので、いいことは待ってるだろうなと思ってました」 アイナが、自身で作詞・作曲も行うシンガー・ソングライターとして活動を始めたのは、BiSH時代の2018年の「きえないで」という楽曲が最初だった。解散後のソロ活動へも、自然に移行できたという。 「アイドルも、シンガー・ソングライターも、ダンサーも、似てないようで似てるので、あんまりジャンル分けで自分を考えたことはなかったんです。BiSHも『楽器を持たないパンクバンド』って言ってて、歌詞を自分たちで書いてたとしても、女の子6人グループなので、アイドルとして見られやすかったと思うんです。でも、それは私にとってはすごくラッキーで、『アイドルだけど、こんなにクリエイティブができるんだ』みたいな。ちょっとアイドルっていうカテゴライズを外せるようなグループではあったので、全部ジャンルレスで、全部味方につけてやっていくのが楽しかったです」
2024年には30歳を迎えて、それまで非公表だった年齢を公表した。シンガー・ソングライターとしての活動も、その理由のひとつだった。 「例えば『きえないで』は18歳で作ったんですよ。『キリエのうた』(岩井俊二監督の音楽映画)の楽曲は、全部26歳の時に作ってたんですよね。年齢の話とともに、曲の味わい方が変わるのかなって。聴いてる女の子が、『私、今25歳だな。アイナちゃんが25歳の時に作った曲が<虹>って曲か』みたいに、共感性もまた変わるのかな、とかも考えて。あとは共演者の方に、年齢非公表だと気を使わせてしまうことも多々あったので」 2025年には、BiSH時代から約10年所属した音楽事務所・WACKを退所し、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴに移籍した。 「何も知らないヒヨコみたいな私を受け入れてくれたのがWACKで、馬糞とかをかけられるMVを撮ったり(笑)、かなり体育会系な日々を過ごして、いろいろ鍛えていただいたので、10年という節目に、そろそろ巣立ってもいいかなと。勇気が要ったけど、巣立てて良かったです」
今年4月からは、初のアジアツアー「AiNA THE END LIVE TOUR 2026 - PICNIC -」を行っており、ソウル、バンコク、台北での公演を終えている。特に台北でのワンマンライブは、チケットがソールドアウトした。 「正直、歌手になりたいと思ってた高校生の時は、そんなことが起きると思ってなかったので。だから、人生、夢だらけだなというか。想定していなかった未来が次々に起こる。これは、誠実さ……いや、真心かな。真面目ではないけど、人に対する真心がすごくあったし、本当にそれだけって言っていいぐらいだから、良かったなって思います」 アジアのファンの反応も新鮮だった。 「めっちゃ歌ってくれる。あと、普通のドラムの四つ打ちにも沸いてて、体に響いている感覚が楽しいのかな、それをちゃんと全身で表現してくれます」
そうした手応えを得ても、アイナは冷静さを失わない。 「私には、今、咀嚼する時間が必要かなと思っていて。『MAJ』もそうですけど、賞をいただいていることに対して、ただ『うれしい』だけじゃなくて、地に足を着けて喜んだうえで、『自分には何が足りないのか』っていうことに、もうちょっと向き合っていかないと、ただのハッピー物語で終わっちゃうので。だから咀嚼する。真面目になっちゃうけど、その喜びを咀嚼して次につなげていくことが、今、すごく自分がしなくちゃいけないなって思ってることです」 自身を客観的に見る姿勢はどこから生まれてくるのだろうか。 「私がやったことだと思ってないというか。曲が出て、全然聴いてもらえなかった時代を知ってるからこそ、こうやってインタビューしてくれてる人、曲を広めてくれるエイベックスの人たちがいないと、こうはなれなかったから。だから自分の仕業ではないというか(笑)。ちょっと客観的に見られるのかなと思います」 この取材は、「MAJ2026」前の慌ただしい状況のなかで行ったが、アイナは疲れた顔を見せることもなく、彼女ならではの柔らかな雰囲気で接してくれた。今後の活動についても、気負うところがない。 「やっぱり今まで、年上のクリエイターの人たちにいろんなことを教えてもらったし、なにせアイドル上がりなもんで、なかなかディーバには……(笑)。たゆたうように生きようかなと思います。つれづれなるままに、っていう感じで」 (取材・文:宗像明将) アイナ・ジ・エンド 2015年、「楽器を持たないパンクバンド」ことBiSHのメンバーとして始動、翌年メジャーデビュー。2021年、全曲の作詞・作曲を手掛けたファーストアルバム『THE END』をリリースし、ソロ活動を本格始動する。2023年にBiSHが解散し、現在はソロで活動中。 「#アジア文化最前線」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。新たな才能が生み出すエンターテインメントや豊かな歴史に根ざした伝統芸能など、最新のトレンドや伝統の再発見をお届けします。日本を含むアジア文化への理解を深め、世界とのつながりを広げることを目指します。
「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の「最優秀楽曲賞」にノミネートされた5作品の中で、エイベックスからノミネートされたのはアイナの「革命道中」のみ。現在のエイベックスを代表するアーティストなのではないかと聞くと、こう語るのだ。 「お任せあれです(笑)。エイベックスの自分のチームとすごくいい絆が生まれているし、同世代が多いので、世代を作っていく……とまで言ったらおこがましいけど、アイナ・ジ・エンドっていう世界観や、新しいニュアンスもこの世に受け入れてもらえることを目指して頑張れるチームではあると思います」 「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の「Grand Ceremony」のステージでは、東京スカパラダイスオーケストラの演奏でアイナが歌唱する。
「ありがたいことに、20代前半から、SUGIZOさん、布袋寅泰さん、小林武史さん、岩井俊二さんとか、人生の先輩と音楽を一緒にすることが多かったので、それは本当に恵まれている。なので今は、みんな同じ人間で、ただ先輩だから、ひるんだり、緊張はしないですが、『ちゃんと何か技を盗みたいな』と思います」 クリエイターの先達たちに高く評価されてきたアイナだが、浮かれるところがないのも彼女の特徴だ。 「『アイナの、こういうクリエイティブなところはすごい』って好きな人に言われると、夜も眠れないぐらいうれしかったですね」 図に乗ってもいいのではないかと言うと、「乗りたいですけど、全然(笑)」と控えめなのだ。
咀嚼することが自分には必要
アイナの話を聞いていて感じるのは、昔からの仲間を大切にし、チームとしてクリエイティブ活動をしていく姿勢だ。 「骨子はひとりで作りたいんです。例えば『自分はこういう歌が歌いたい』とか。骨子になるワンコーラスは自分で作って、そこからは皆さんに水をやってもらい、いろんなことをして花を咲かせてもらうという工程は必要なんですけど」 そんなアイナが、たまに欲しいと思うものがあるという。「ディーバ感」、つまりどっしりとした歌姫感だという。 「やっぱりディーバ感があるほうが、みんな付いていきやすい。『姉さん』って言えたほうが楽じゃないですか。でも私、姉さんキャラでもないので……(笑)。ただ、ソロっていうのは、わがままを言わなくちゃいけなくて、例えば演出ひとつ取っても、『いくらお金かかっても、私は絶対これがしたいんだ』って強い気持ちがないと、周りは動けないじゃないですか。私に揺らぎがあると、周りは動けないんだって気づいて、無理やりでもいいから、わがままを言う1年間を去年やってみたんです。頑張ってみたんですけど、そんなにディーバ感が出せなかったっていう。私はどんだけ頑張っても、どんな環境になっても、あんまり変わらないんだと思います。私は周りを見ちゃうし、空間に自分を溶け込ませて表現するほうが得意」 そんな周囲に気を使うアイナが、結果的に成功を手にすることになった。 「みんなそれぞれに、いろんな役職でスターですからね。たまたま私が表に出てるスターなだけで。みんなで作品を作ると、みんなのプロフェッショナルを味わえるし、楽しい」
「MAJ2026」最優秀楽曲賞ノミネートは「大ご褒美」
その2025年、アイナに大きな転機が訪れる。テレビアニメ「ダンダダン」第2期オープニングテーマとして「革命道中 - On The Way」をShin Sakiuraとともに書き下ろしたのだ。「革命道中」は、日本国内での大ヒットに加えて、海外でヒットしている日本の楽曲のチャート「Billboard Global Japan Songs Excl. Japan」でも3週連続で首位を獲得。アイナの楽曲が海外でも多くの人に聴かれる契機となった。「革命道中」では「ダンダンダダダン」というフレーズも繰り返される。 「子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで、老若男女が口ずさみやすいキャッチーなフレーズをどこかに入れようとして。だけど、私らしい『したたり』とか『揺蕩(たゆた)う』とか、日本的、詩的な言葉もしっかり入れたいって欲張った結果があの歌詞になりました。Shin Sakiuraは18歳からの友達で、それこそお客さんが2人とかしかいないライブハウスで一緒にライブしてたマブダチみたいな子なんです。『ダンダダン』の楽曲が作れるっていう喜びと初期衝動があったので、その初期衝動がそのまま焦燥感のあるドラムンベースになってたり、本当に気持ちがしっかりトラックに乗っているところがあります」
その年末には「第76回NHK紅白歌合戦」に出場し、「革命道中」を歌唱した。2021年にBiSHとして出場していたが、ソロとしては初めての「紅白」だった。 「グループで初めて出られた時もすごくうれしかったけど、ソロは自分で作詞・作曲をして、友達と振り付けもして、自分で携わった楽曲だったので、やっぱり自分のクリエイティブが認められた気がして、すごくうれしかったです」 2026年には、国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」の主要6部門のひとつである「最優秀楽曲賞」に「革命道中」がノミネートされた。 「うれしい。最近タクシーでよく『MAJ』の広告が流れているんですけど、自分の名前と『革命道中』っていうワードが出てくるたびに、何か自分事じゃないみたいな。チームのみんなが喜んでいる顔が浮かぶのでうれしいし、『ちょっと実感がないな』というところです。本当に夢みたいですけど、生きていると、たまにはこんな『大ご褒美』があって頑張れるんだろうなって思います。大ご褒美です(笑)」
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